漆器の町、黒江から生まれた漆ガラス食器「黒江 JAPAN」
400年以上の歴史を持つ紀州漆器(黒江塗)。その生産地である海南市黒江は 会津、山中・輪島、越前と並び全国四大産地と称されるほど。伝統工芸につきものの職人不足で産業としてはかつての勢いをなくす中、新時代の漆芸の形を生み出したのが「塗り工房ふじい」。ガラスと漆。まるで異質と思われるその2つを独自の技法で1つの食器として融合させた稀有な技術は、見て美しく、器として使いやすい、オールマイティな漆器製品として業界に新たな息吹を吹き込んだ。
漆器のデメリットを全て削除したんです
フォークやナイフといったカトラリーは漆器にはご法度。だからテーブルウェアのジャンルにありながらもお菓子入れや小物入れに使われているんです。でもそれでは現代の生活に合わない。この器は表面がガラスなので、ナイフもフォークも使えるし、表面に載って見える金箔も実はガラスの裏側から施しているので脂ののったお肉だって載せることができる。下地の漆にコーティングを施しているので、食洗機にも対応しています。いわば、繊細で傷つきやすく食洗機にかけられない漆器のデメリットを全て削除していったのがこの「GLASS JAPAN」。しかも工場で塗る色味ではなく、きちんと何層も塗り重ねた漆器特有の色をしっかりと表現しています。
漆工芸とテクノロジーの融合を
ガラスに塗れたらいいなと思ったのは18年前。海外へ輸出する際に木地が曲がってしまったり割れたりと、輸送コンテナの温度での損傷が激しかったことからでした。ガラスであれば灼熱の赤道を越えても問題ありません。そうは思ったものの、ガラスに漆を塗るとすぐに剥がれてしまう。着想から時間はかかりましたが、プライマーと呼ぶ接着剤や塗料を独自で開発することで、ガラスと漆を定着させることに成功しました。
丁寧に脱脂したガラスにプライマーを吹き、金箔や銀箔をのせてエアーで躍動感のある模様を作り、その上に漆を塗り重ねます。1点1点模様の出方に微妙な違いが出るのもハンドメイドならでは。おかげさまで「GLASS JAPAN」とその技法は、日本が誇る技術として近畿経済産業局DISCOVER KANSAIプロジェクトinパリに選ばれ、パリのショールームでも人気を確立しています。
漆器らしくない新たなスタイルを作りたい
これまでの漆器は木地を挽く職人、下塗り、中塗り、上塗り…さまざまな職人の手を経てできていました。それをあえてやめ、ガラスの選定から発注、コンセプトデザインに塗り、カタログを作り展示会に出る…といった塗師だけでなく問屋のしている部分まで一貫して自前で行うことで、コストだけでなく時間も大幅にカットしました。古来から伝わる伝統色と金箔を用いた「KODAINURI」シリーズだけでなく、蒔絵の代わりにレーザーで絵付けを施したり、パール粉を混ぜ込んだり、さまざまな手法を用いているのも、すべて「漆器らしくない漆器の新しいスタイルを作りたい」という思いが原動力。木地に代わるガラス素材にもこだわり、徹底したオリジナルを追求しています。
黒江の町への恩返しを
漆の吹き付けには埃が大敵。作業は空気の舞わないクリーンルームで行い、塗りを施した器は高温の乾燥室へ。1時間後に取り出してやすりをかけ、また塗り重ねて乾燥。この繰り返しでようやく完成するんですが、毎日没頭して1日に最大500枚。いずれ、この工程の大半を機械化することも視野に入れています。これからの伝統工芸には機械化も必要。伝統工芸士はもちろんなくてはならないが、僕らはこの技術がその先の歴史になるよう進化させていかなくてはいけません。紀州漆器は他の産地に先駆けてプラスティック素地を取り入れ大量生産路線に進んだことも1つの特徴。今後、このスタイルがまた新たな時代の漆器産業を担っていく存在となれば、それが黒江の町への恩返しになるのかなと思います。
塗り工房 ふじい藤井 嘉彦さん
黒江生まれ。家業の漆器業の修行のため、単身で中東、アメリカ、ヨーロッパを見聞し、漆器製品の輸出や百貨店での展示などを手掛ける。帰国後、漆塗りの技法をインテリアに取り入れたいと2001年「塗り工房ふじい」を設立。独自でガラスへの漆の定着化に成功し、世界初の漆塗り洋食器を開発、デザイン、製造、プロデュースしている。
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