人と山を想う、職人の手仕事「紀州産 からだ用棕櫚たわし 檜柄」
「たわし」と聞いて思い浮かべるのはチクチクとささる硬い手触りではないだろうか。そんなたわしの概念を覆すのが、国産棕櫚と職人の手仕事により生まれる天然の肌触り。しなやかな毛足は、人の体を洗えることからも、いかに肌にやさしいかが知れる。使命は、かつて地元の棕櫚産業を支えてきた棕櫚山を再生し、質のよいたわしを作ること。今では国産棕櫚のたわしを作る全国で唯一の場所として、親子2代での挑戦が続いている。
文句なしの国産ものを作りたい
棕櫚産業はもともと海南の地場産業の1つ。でも大量生産、大量消費によるコスト削減で輸入の棕櫚やパームが主流となり、棕櫚山は廃れていきました。そんな中、父と2人で考えたのは「文句なしの国産ものを作りたい」でした。しかし、その頃既に山には棕櫚皮を剥く人はおらず、山に通い、当時を知る方々を訪ねて協力をお願いすることから始まりました。農薬や化学薬品を使わず、自然の状態で育つ紀州産の棕櫚は、とりわけ繊維が均一でしなやか。でも、最初からそうだったわけではなく、約40年間放置されていた棕櫚の木が手をかけるうちに息を吹き返し、3年ほどで皮の色や手触りが変化。驚くほどしなやかでやさしい手触りになったんです。
世の中に国産棕櫚の手作りたわしを作っている業者はないことから、暴利と言われてのスタートでした。「100均でたわしがいくつ買えるか知ってるか?」と。ちなみに当時は5個で100円。それでも同じフィールドで戦うわけにはいきませんでした。嘘をつかずに積み上げたらこの値段になる。作り続けるためには譲れない部分でした。
山の作業も巻きの作業も一期一会
髙田耕造商店として祖父が創業したのが1948年。最初はパームを使ったシューズブラシの製造が中心でしたが、父の代から便座カバーやバスマットといったいわゆる日用品の縫製も手がけるようになりました。もちろんたわしも巻いていたのですが、その技術は手作業で作る長さ3㎝、幅2㎝、厚み1㎝のミニチュアたわしストラップで注目を受けるようになりました。たわし巻きは分量も巻き加減もほとんどが勘の職人の世界。天然の棕櫚にもいろいろな状態があるため、少しでも手触りのいいものを届けたいと、巻く手前で選別しています。材料は棕櫚とステンレスのみ。シンプルですが工程のどこも手は抜けない、熟練の技がいるところです。素材の棕櫚も毎日変化する。同じ状態の皮に出会うことは奇跡と言っても過言ではありません。山の作業も巻きの作業も、一期一会。どれをとっても誇れる作業です。
家の外のものだったたわしを家の中に
もともとシューズを洗うなど、たわしは家の外で使う場合が多いですよね。でも国産棕櫚の当たりのやさしさを考えると、対象物を人間に近いところにするのもいいのではないかと思い至りました。そこで、体を洗うたわしや野菜を洗うたわしなど、使うシーンを考えての商品企画にスイッチしたんです。実はこのたわし、テフロンのフライパンも洗うことができます。それだけ傷をつけないやさしさを持っているということです。柄付きは、原点のシューズブラシをヒントに考案。それだけで一気にボディブラシらしくなりますよね。先入観をいかに崩すかがポイントでした。国産棕櫚以外の商品も含めて、サイズや形状、柄のありなしなど、細かくわけると500種以上の商品を扱っています。紀州産棕櫚を扱うことでこんな風に考え方が広がり、お客様にあった付加価値のある商品づくりができることを嬉しく思っています。
再生を通り越して乱獲になってはいけない
あるきっかけで2018年の春から山仕事の見習いに入り、原料の確保と加工を担当し始めました。これがすごく難しいし深い。本当に師匠には教わることばかりです。棕櫚を剥く作業までには、草を刈り山に入る道づくりから始まります。1本の木から1ヶ月に収穫できるのが1枚。枯れた葉を落としていくことで山に陽の光が入り、手入れ(皮を剥くこと)によってまた翌年に新たな皮が生まれます。僕たちの作業は山の再生も目的の1つ。だからこそ、再生を通り越して乱獲になってはいけない。これは師匠からいただいた大事な言葉です。
そんな山での経験を経て原材料から関わると「僕は棕櫚に生かされている」と感じ、改めて棕櫚に魅了されています。全部が国産である必要はないのですが、どんな形でも棕櫚のある生活が当たり前になればいいなと思っています。 使ってくれた方からは「主人のお墓を洗ってあげたい」「おじいちゃんにプレゼントしたい」など嬉しい声をいただきます。量産はできないものの、そういったお客様の声を大切に、より人と自然にやさしい、品の良いものづくりを続けられたらと思っています。
株式会社 コーゾー髙田 大輔さん
地元で獲れる純国産の棕櫚(しゅろ)を用いたわしを作る国内唯一のメーカー。「髙田耕造商店」のブランドで棕櫚製品の企画・販売を中心に家庭日用品を製造している。地域の自然保護に尽力しながら伝統の産業を継承、発展させる取り組みを高く評価され「紀州産 からだ用棕櫚たわし 檜柄」は「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」モノ部門の2017年度地方創生大賞にも選ばれている。
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