1001回目の正直、妥協を知らぬ料理人が作るチーズテリーヌ「MOGA」
紀南の中心都市・田辺。その住宅街の一隅にミシュランガイドに掲載されたレストラン「Mobo」がある。古民家を改装した雰囲気ある木の扉の横には、あえて片仮名で「モボ」と大書きした布。遊び心が感じられる佇まいに期待が高まる。しかしそんな名店にも、コロナ禍の営業自粛は暗い影を落とした。シェフの南佳宏さんはありあまる時間を、新作スイーツの創作に注ぎ込んだ。完成したのは、「モダンボーイ」を略した店名「Mobo」にちなんだ「MOGA(モガ)」。濃厚でありながら爽やかさも感じられる絶品のチーズテリーヌだ。。濃厚でありながら爽やかさも感じられる絶品のチーズテリーヌだ。
1000本の試作を経て完成したチーズテリーヌ
「本当に1000本くらい試作したんですよ」と笑顔でお腹をさすってみせる南シェフ。あくまで料理人であって、パティシエではない南シェフにとって、スイーツの開発は平坦な道のりではなかったと振り返ります。なぜ、先の見えないコロナ禍において、新作料理ではなく新作スイーツを開発しようとしたのでしょう。
その答えは「この数年で自分たちの価値を上げるという覚悟と準備」。 国内外のお客様に和歌山の素材をふんだんに使ったコース料理を食べてもらい、素晴らしい食体験の最後のしめくくりを飾るにふさわしいスイーツを作りたいという高い理想があったのです。
スパイスと香草のベストバランスを追求
料理にはできるだけ和歌山県産の素材を使うという南シェフ。チーズテリーヌを作ると決めた際、和歌山の梅と甘夏を合わせることを決意します。特に梅については「和歌山を代表するような梅のお菓子がない」と県外の人から言われ、悔しい思いをしたことからのインスピレーションでした。南シェフが惚れ込んだ 自然栽培の梅を龍神から取り寄せ、何種類ものスパイスで風味づけ。最終的にはシナモンと合わせるベストバランスを見いだします。同じく甘夏にはコリアンダーやカルダモン、ローズマリーなどを香らせました。どんな少量のスパイス・香草にも意味があり、ベストバランスを探るのは大変だったそう。「スパイスの組み合わせは、もしかしたら料理人ならではの発想かも」と控え目に胸をはります。
お取り寄せでもお店と同じクリーミーさを
味わいと同じくらい食感にも苦労したと話します。全国各地のお店からチーズケーキを取り寄せたものの、解凍すると水分が離水して食感がボソボソになってしまうものが多かったそう。「MOGA」はそれではいけない、お取り寄せにした際も店と同じ食感をーー。何度も試作を重ねた南シェフは、熱風を循環させるコンベクションオーブン ではなくパン用のオーブンで湯煎焼きをする、梅や甘夏のジュレと2層にして一緒に焼き上げて一体感を出すなど、改良を重ね、納得のいく風味と食感に辿り着きました。
「Mobo」の気持ちを代弁する「MOGA」
完成したチーズテリーヌ「MOGA」は、和歌山を大切に想うレストラン「Mobo」のスタンスを代弁するような一品に仕上がりました。チーズそのもののような濃厚な味わいでありながら、爽やかな果実ジュレとうまくとけあい、テクスチャーはどこまでもなめらかでクリーミー。小麦を使わないグルテンフリーなので、より多くの人に食べてもらえて、なおかつ食後感が軽い。この一口が「Mobo」を、そして和歌山を知ってもらうきっかけになればと南シェフは考えています。
田辺を旅の目的地にー魅力の創出
コロナ禍が落ち着き、お店に国内外のお客様が増えてきた「Mobo」。レストランのキッチンで腕をふるう日々が戻ってきた今も、「MOGA」には愛情をもって取り組んでいます。チョコレートをはじめ、パッションフルーツやサツマイモなど珍しいフレーバーも試作済み。「おいしいものができている。どんどん面白い取り組みをしたい。お店でならこういった単発のフレーバーも出せるかな」と笑顔を見せます。熊野古道の玄関口である田辺。ここが通過点ではなく旅の目的地となるよう、「Mobo」と「MOGA」で素晴らしい食体験を提供したいと熱く語ってくれました。
欧風料理 Mobo「欧風料理 Mobo」
南佳宏さん
和歌山県・白浜町出身で洋食屋を営む家で育つ。幼い頃から料理の道を志し、神戸の一流ホテルや老舗洋食店などで研鑽を積んだ後、和歌山県へUターン、利き酒師のマネージャー知原正次さんとともに「Mobo」をオープンした。郷土・和歌山の豊かさを表現する創作料理と日本酒をはじめとするドリンクとのペアリングで好評を博す。
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