目の前にステージを感じる臨場感。無指向性竹スピーカー「Kaguya」
目を閉じると、音楽ホールにいるかと錯覚する。この表現にはなんのてらいもなく、驚くほどの臨場感をそっくりそのまま耳元で感じることができるのだ。そんな奇跡的な音の再現を叶えたのが、ウメダ電器の無指向性竹スピーカー「Kaguya」。一見すると竹をエンクロージャー(筐体)に用いた音質よりも見た目重視なインテリアスピーカーなのかと思いきや、その実かなりの本格派。限りなくリアルな音だけでなく、現場の空気や息遣いまでを繊細かつ雄弁に伝えてくれる。
ものづくりと音楽好きが原点です
とにかく小さい頃からものづくりが好きな子でした。小学5年生で雑誌の付録の真空管ラジオを作り、中学では壊れたラジオをばらして組み直していました。加えて音楽も好きで、高校の頃には小遣いは全てレコードに消えていましたし、大学では旅行をするとその街のジャズ喫茶を探すのが当たり前。なので、卒業してオーディオメーカーに勤めた時は、アンプの回路設計のために毎日聴きたいレコードを持って行けることが楽しくて仕方なかった。でも、結果的に家の事情でその会社を退職して和歌山に戻り、この店の2代目となりました。今ではここがこれまでのものづくりと音楽の集大成のように。建築現場の足場を使ったこの店の内装も実は僕の設計です。
思いつくとやらずにすまないタイプ
竹スピーカーを手がけたきっかけは、知人の持つ竹林の整備作業を手伝ったことから。間引いた竹をいただくことになり、思いついたのが竹をスピーカーのエンクロージャーにすることでした。大学の卒論が「音響工学」。以前から聞く位置に周波数のバランスが左右されない無指向性スピーカーを研究し、陶器や木など、さまざまな材質を試していたんです。その1つとして竹にスピーカーを入れたところ、これがすごくいい音に! 後からわかったことですが、理由は竹独特の形状にありました。完全な筒状では音が中に残ってしまうんですが、いびつに節がある竹は、その中で音を乱反射させ、減衰させるんです。また低域特性を改善するために新しい音響構造を思いつき、これは特許が認定されました。おかげで音がふくらみを持ち、さらに無指向性の効果と合わさることで、より奥深い音の再現性が起こったというわけです。
形が違うので計算は全て1本ずつ
当初、素材となる竹には、そのままだと10本に1本が割れてしまうという問題がありました。これを解決したのが「燻し」の技。職人に依頼し、山から切り出した竹を燻すと、強度が増すだけでなく、見た目の美しさを併せもつ乾留竹になります。伐採の時期は10月から3~4ヶ月程度。それ以外の季節は虫が入ったり水分が多かったりして使えません。切り出した竹が燻しから帰ってくるのが6月頃。これを切りそろえ、中の節をきれいに抜いた後にウレタンニスで内部を密閉。竹を採るところから数えるとここまでで半年から1年かかります。 素材が天然なため、当然1本1本形が違います。低音を増強して下から響かせるよう開口面積と容積、高さを割り出すんですが、それぞれ一度形をトレースして面積を割り出し、中に埋めるパイプと隙間を計算します。また最低でも内径が9㎝ないとスピーカーユニットをつけられないため、材料確保の問題も残っています。竹って年輪を刻むような成長の仕方ではなく、大きく育つものは筍の頃から大きいんです。それには手を広げて歩けるくらいの間伐を施した竹林が必要。今は山東(和歌山市)や京都のものを使っています。
オーディオ業界の1つのスタンダードを目指して
竹製ということももちろんですが、原音の空気の波をそのまま忠実に再現する無指向性スピーカー自体が世の中には少ない。これはなぜかというと、無指向性の良さは数値にしにくいため大きいメーカーではなかなか扱われないことにあります。この音をオーディオ業界のスタンダードにしたいというのが僕の夢。Kaguyaを広めたいというよりも、この音を知ってほしいんです。人間は音を耳でなく脳で聴きます。実際に聴いてもらうと、音楽好きや演奏家たちが「これは生の音だ」「生を超えた」と声を揃えて言ってくれます。 レコードの時代からカセット、CD、ウォークマン、ipodと、今では歩きながら聴けるほど音楽の手段は変わってきました。その文化はそれとして、もっとじっくりと腰を据えていい音楽を聴く時間を持ってもらいたい。そして、このKaguyaを通じて、涙が出るほどの感動を体験してもらいたいですね。
ウメダ電器梅田 寛さん
JR和歌山駅と和歌山城を結ぶけやき大通りに店を構えるコンピューター&オーディオビジュアルショップ。メーカーでオーディオ研究の第一線で活躍してきた経験をもとに、無指向性竹スピーカー「Kaguya」を開発。特許を取得した特殊な構造により、優れた低域特性とシンプルなデザインを実現し、「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」2018年度政策奨励賞にも選ばれた。
店内には私物のレコードが3000枚並び、「Kaguya」での店頭視聴も可能。
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