古座川の野に咲くバラを味わう「Dew Rose CORDIAL」
古座川町・三尾川。清流に囲まれたこの谷あいで、朝露が降りる頃、開きかけたバラを一輪一輪摘み取る姿がある。「Dew Rose CORDIAL(デュー・ローズ・コーディアル)」に用いるバラ栽培を率いる「あがらと」の久山秋星さん。ここでは農薬や化学肥料はもちろんのこと、除草剤や殺虫剤、動物性の肥料も一切使わない「植物性自然栽培」で食用のバラを生産している。そのバラとオーガニックレモン、てんさい糖のみで作られたコーディアル(シロップ)は、自然の中で香るバラそのものの風味が感じられる。
自然のままに咲き誇るバラの香りそのままに
透き通った濃いピンクの瓶を開けると、フレッシュなバラが心地よく香ります。香料的な押し付けがましさがなく、大地に根ざし朝露を浴びて野に咲いた花の、どこまでも清冽な香り。ジュレやクリームにバラの風味をつけてお菓子に仕立てたり、かき氷シロップとして味わったりと、使い道は無限大。目を閉じれば、芳醇な香りから、バラが咲いている姿をありありと想像できることでしょう。優雅でありながら想像力をかき立てるバラの小瓶。この宝石のような逸品はどのようにして生まれるのでしょうか。
「あがらと」のルーツ・三尾川
バラ栽培といえば東欧が有名ですが、この「Dew Rose CORDIAL」の原料となる食用バラは、和歌山県古座川町で栽培されています。熊野の山々から流れ出す清流と、風通しのよい谷あいの地形に恵まれた三尾川地区。ここは「あがらと」の代表である土井新悟さんの祖母が暮らした土地でした。土井さんは2016年、自然との共生を目指してこの地に移住し、野菜などを作り始めます。久山さんはその理念に惹かれて移住した一人。京都の生花店でフローリストとして働く中、農薬アレルギーで花を飾ることができないお客さんとの出会いから、無農薬での花の栽培に興味を持ったのです。
世界のオーガニック基準を超える「植物性自然栽培」
より安全に、より自然な形で花を育てたい――。目標を「食べられるバラ」に設定してからは試行錯誤を繰り返しました。80種類1200株ものバラを取り寄せ、香りや食味がよく三尾川の環境に合うものを選抜していきました。現在栽培しているのは「パパメイアン」「イブピアッチェ」「クリムゾングローリー」など。落ち葉や米ぬかなどを発酵させた「ぼかし」と呼ばれる肥料のみを使って育てます。園芸家の間では施肥の量が多く難しいと定評のあるバラですが、 化学肥料、動物性の肥料は一切使いません。自然の山の環境をお手本に、植物がより吸収しやすい形での施肥にこだわり、オーガニック食用バラの世界基準よりも高いストイックともいえる基準で栽培されているのです。
バラの株に負担をかけない無加温
四季咲きのバラは、ハウスで加温をすれば冬も咲かせることができます。しかしそうすると本来30年近く生きるバラは、7年ほどで枯れてしまいます。「あがらと」の冬は、コーディアルやジャムなどのバラの加工品や堆肥を作る季節。バラの株に負担をかける栽培はしません。
「あがらと」でバラを囲っているハウスは主に獣害対策用です。ハウスの骨組みには、柿渋や松の煤を塗って防腐処理をした竹を使用。放っておくと山を荒らす竹を伐採し、土に還る農業資材として使っています。メッシュには建築現場で廃棄される不織布の足場シートや漁網を再利用するなど、環境に負荷をかけない工夫をしています。
受け入れてくれた三尾川地域への恩返し・恩送り
三尾川の人々は「あがらと」の土井代表がここにルーツがあることもあり、移住者をすんなりと受け入れてくれました。米作りのコツや藁の結び方を手取り足取り教えてくれたと言います。「あがらと」のメンバーは、恩返し・恩送りとして、過疎化が進む三尾川で、バラ栽培を通じて事業を展開し、地域経済の活性化や人口減少に対してアプローチしています。一例として「あがらと」と同じ農法で栽培したバラの買い取り、加工品製造での雇用の創出などが始まっています。また、地域の方々も栽培してくださったバラを買取り、その一部を寄付することで、地域の財政の建て直しが実現し、ゆくゆくは耕作放棄地の草刈りや山の保全、空き家対策などに利用し、地域の魅力を高めていこうとされています。
「食用バラの村」として自立できる地域に
現在は3000株を栽培しており、日本最大級 を誇る「あがらと」のバラ。2024年には4000株に増やす予定です。「あがらと」の夢は「三尾川を世界一の食用バラの産地に。そして『食用バラの村』として自立した財政が成り立つ地域に」。バラのような大輪の夢が花開く日に向けて、一歩一歩、たゆまぬ努力を続けています。
株式会社 あがらと久山秋星さん(左)
庭師を経て京都でフローリストとして7年間働く。愛する花をより自然な形で美しく咲かせることはできないかと思っていたおり、土井代表の「自然との共生」に共感し「あがらと」の立ち上げに参画、三尾川に移住した。スタッフと犬やニワトリといった動物たちとともに代表の祖母が残した古民家で暮らす。
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