こだわりの色つや身体に沁みこむような味わい
ネーブルマーマレード
世界遺産に登録されている霊峰・高野山。その玄関口である大門を通り過ぎてまもなく行ったところ。そこに小さな小さなジャム屋さん、『コンフィチュール コウヤ』はありました。
家業であるガソリンスタンドの裏手の、これまた小さな作業場でつくられた『ネーブルマーマレード』は、平成26年度推奨品審査委員奨励賞を受賞しています。
地元・和歌山のネーブルオレンジとお砂糖だけのピュアなマーマレード。さて、その美味しさには、どんな秘訣があるのでしょう?
「ていねいにつくる」それが美味しさへの近道
「特に秘訣なんてないんですよ。手間ひまかけて、ていねいにつくるだけです」
そう控えめに答えるのは、店主の加勢田香世さん。しかし詳しく話を聞くと、一口に「ていねいに」といっても、加勢田さんの「ていねい」は、ずいぶんと念がいっています。
雑味を避けるためにネーブルオレンジの皮は、りんごの皮をむくように表面だけを使用。さらに実の部分は、なんと一つずつ手作業で内袋を取り除いているそうです。
「そりゃ大変ですよ。でも内袋を取ることで、出来上がりの色ツヤが違うんです」
色ツヤばかりではなく、雑味を避けるためのていねいなつくりは、味にも表れています。口に含むとすうっと身体に染み込むような、そんな透明感。やさしい美味しさに包まれてしまいます。
こうして加勢田さんは、季節ごとに旬の果物をジャムやマーマレードにしています。加工から瓶詰め、ラベル貼りまで、すべて手作業のため、少量ずつしか出来ませんが、キウイや柿など、年に7種類のジャムをつくっています。
3人も入るといっぱいの小さな作業場。
ほとんどの工程を加勢田さん一人でこなします。
材料となる果実は近隣の信頼できる農家から
加勢田さんがつくるジャムは、すべて近隣の知り合いの農家が栽培しているものばかり。
「知り合いだから、どんな風につくってるかわかって安心でしょ? 特にマーマレードは皮も使いますから」
せっかくなので、マーマレードにするネーブル・オレンジの栽培農家を、加勢田さんに案内してもらいました。
やって来たのは、高野町の西隣のかつらぎ町。出迎えてくれたのはオレンジ農家の結城千代さんです。かつらぎ町はネーブルオレンジづくりが盛んで、和歌山県産の約半分を生産しているそうです。結城さんのオレンジ畑では、出来るだけ低農薬・有機栽培を心がけているということでした。
取材に訪れたのは11月初旬。収穫までまだ間があるせいか、オレンジはちょっと青いかな?という感じでしたが、傾斜地にたわわに実をつける木々の眺めは、豊かな秋そのもの。
ただし、たくさん実がなっていても、店頭に並ぶのはA級品だけ。でもB級品だって、傷があったり形や大きさが規格に合わないだけで、農家はA級品と同じようにきちんと育てています。「それはもったいない!」というのが、加勢田さんがジャムづくりを始めたきっかけでした。
「B級品を私の手で“最高級品”にする。そんな思いでやってます。そこが醍醐味なんです」
加勢田さんの「ていねい」の秘密を垣間見た瞬間でした。
(2015年11月取材)
CONFITURE KOYA
オレンジ農家の結城千代さん(左)と加勢田香世さん。
マーマレードづくりで結ばれた“盟友”という趣ですね。