太田久助吟製(湯浅町)

金山寺味噌

令和3年度プレミア和歌山推奨品審査委員特別賞


天保年間より続く伝統の技が
滋味溢れる一品を生み出す

太田久助吟製の金山寺味噌の写真

 金山寺味噌は、鎌倉時代に中国から和歌山県地方に伝わったと言われます。味噌汁などに使うのではなく、野菜と一緒に米・裸麦・大豆を発酵させた「食べる味噌」「おかず味噌」です。麹付けした米・裸麦・大豆に茄子や瓜などの野菜、塩、砂糖を加えて60日から90日程度、室(むろ)で寝かせて発酵・熟成させます。

 弘兼さんが向かったのは湯浅町。ここは古くから金山寺味噌の生産が盛んな土地です。中でも太田久助吟製は創業から約150年。天保年間に建てられた蔵で、今も昔ながらの製法で金山寺味噌を作りつづけています。具材を大ぶりに使っているのが特徴で、熟成感があります。さらに美味しさの秘密は、古くから蔵に住み続けている酵母菌にあるといいます。この蔵付き酵母菌に守られて熟成を深めていくのです。金山寺味噌としては初のプレミア和歌山推奨品審査委員特別賞を受賞しています。

蔵の中の写真
蔵の中の写真

天保年間からの蔵付き酵母菌が生きている味噌蔵。耐震工事などを施しながら、今も大切に受け継がれています。

「この蔵を潰すのはあまりに惜しい!」その一念で味噌の世界へ

 太田久助吟製の六代目、平野浩司さんに弘兼さんがお話を伺うと、実は平野さんがこの世界に入ったのはつい3年前だといいます。
 「ここは妻の実家で、私は20年以上、小売業界でサラリーマンをやっていたのです。結婚後も先代夫婦にはお世話になっていたのですが、後継者もいない、体力的にもきついので廃業したいという話を聞きました。私も湯浅で育ってこの蔵のことを子どもの頃から知っています。この180年続いた蔵をつぶすのは、あまりに惜しいと思ったんですね。いろいろ悩みましたし、勤めていた会社にも引き止められましたが、3年前、38歳の時に『太田久助吟製』を継ごうと決心しました」

 デジタル化された作業が多かったサラリーマン時代と違い、手作業で麹付、発酵などを行う全く異質な世界への転職は、弘兼さんも気になったようです。
 「先代は職人らしく『見て覚えろ』的なタイプでしたから、苦労しましたね。金山寺味噌は発酵させる際の温度管理が肝心なんです。これが難しくて、初めの頃は何度も仕込んだ味噌を樽ごと捨てる羽目になりました。先代の教えを守りつつ、今も修行の毎日です」

平野さんと弘兼さんが対談する写真 金山寺味噌の原料の写真

太田久助吟製六代目、平野浩司さん。写真右は金山寺味噌の材料。これに塩、砂糖を加えて60日から90日程度、室(むろ)で寝かせて発酵・熟成させます。

室の中を見学している写真 発酵中の金山寺味噌の写真

平野さんに金山寺味噌を発酵させている室(むろ)に案内してもらいました。夏季は温度が高いため60日程度で出来上がりますが、冬季は練炭を炊いて室の温度の調整をするとのこと。写真右は熟成途中の味噌。

「蔵とともに伝統の技術を守っていきたい」

 蔵を一通り見学した後、待ちかねたように金山寺味噌を試食した弘兼さん。

金山寺味噌を試食する弘兼さんの写真

 「おー! これは………ちょっと冷酒はありませんか? 酒の肴にぴったりですね。パクパクといくらでもいける感じです」
 酒の肴だけでなく、ご飯のお供にもなる金山寺味噌ですが、地元和歌山ではほうじ茶で炊いた茶粥と合わせるのも人気。実際、蔵に隣接されたショップではレトルトパックの茶粥も販売されていました。

 最後に太田久助吟製六代目、平野さんから一言いただきました。
 「この商品の魅力は、何といっても昔ながらの製法でつないできた伝統・技術だと思っています。私も先代から受け継いだ技術を継承して、この蔵と蔵付き酵母菌と一緒に伝統を守っていけたらと思います」

平野さん、弘兼さん、残間さんの集合写真

この記事に登場したプレミア和歌山推奨品

金山寺味噌の商品写真

金山寺味噌
太田久助吟製
商品詳細ページ
太田久助吟製(外部ページ)

紀州へら竿 和人(橋本市)

竹製バスロッド

令和3年度プレミア和歌山推奨品審査委員奨励賞


へら竿作りの“和”の技術で
バスフィッシング竿を実現!

紀州へら竿和人の竹製バスロッドの写真

 続いて向かったのは和歌山県の北部、高野山の麓にある橋本市。ここは知る人ぞ知るへら竿作りのメッカです。究極の和竿と呼ばれるへら竿の九割までもが、この地で作られていると言われ、紀州へら竿は伝統的工芸品として国に指定されています。そのノウハウを活かして作ったのがバスフィッシング用の竿、『竹製バスロッド』なのです。

 生産者の田中和仁さんは、釣り好きが高じて、システムエンジニアから29歳の時にへら竿職人の世界へ。師匠に弟子入りし、以来25年のキャリアを積んできました。
 竹製バスロッド開発のきっかけは「伝統の“和”の技術で、より素晴らしい“洋”の製品を作ってみたい」というチャレンジ精神からでした。へら竿と同じく手元から真竹、高野竹、矢竹の三種の竹を使い、へら竿作りの特徴である“火入れ”の技術で曲がりを調整しながら一竿にまとめています。

田中さんと弘兼さんが語り合う写真

漫画“職人”である弘兼さんは、同じ職人として共感するところが多いのか、「これは何に使うんですか?」と、しきりに道具について質問していたのが印象的でした。

竹でしか味わえない釣り味がある!

 バスフィッシングとヘラブナ釣りでは竿の振り方が違います。ヘラブナ釣りは比較的軽い振りで十分ですが、バスフィッシングはルアー(擬似餌)を狙ったポイントに投げ込み、さらにルアーを本物の餌のように泳がせなければなりません。バスフィッシングならではの強度、しなり具合が求められます。さらにリールの取り付け、釣り糸を通すガイドも必要です。田中さんは5年以上をかけて製品を完成させました。

 バスロッドは通常グラスファイバーやカーボンで作られますが、それをあえて竹で作ることの利点を、田中さんはこう語ってくれました。
「竹は非常に繊細なフィーリングがあって、魚がヒットした瞬間を的確に手に伝えてくれます。この釣り味は竹ならではのものなんです。バスフィッシングをやる方は、一度試して欲しいですね」

材料選びから仕上げまで一人の職人が担う

 高野山の豊富な竹資源を活かし、橋本市でへら竿が作られるようになったのは昭和初期からと言われています。特徴的なのが、竹伐採、設計、火入による曲がりの矯正、削り、漆による仕上げまで、一人の職人が全て行うところ。使う道具も職人それぞれが自分が使いやすいように自作します。一竿を仕上げるのに約一年を要すという、非常に手間隙のかかるものです。

制作中の田中さんの写真
「和人」の竹竿の写真

炭火で竹を温めながら曲がりを矯正していく「火入れ」の工程(写真上)。先端部分は4枚の竹を貼り合わせた上で丹念に削り、仕上げていきます。

 また、へら竿は受注生産が多いといいます。どんな長さ、太さの竿にするかは、釣り人がどれくらいの大きさの魚を、どんなフィールドで釣るかによって異なってくるからです。仕上げの好みも人それぞれ。注文してから一年以上経ってやっと手にすることができる、まさに一点物です。漆を使った仕上がりの美しさもあり、釣り人の所有欲をくすぐるのは想像に難くありません。高級品になると数十万円のものもあるとか。

「この商品はまさに和歌山そのものなんです」

 弘兼さんが思わず田中さんに尋ねました。これだけ手間も時間もかかると、会心の作品ができた時には、人に渡さずに自分のものにしたくなるのでは?
「それがたまにあるんですよ(笑)。でも最終的にはお客さまのところにお届けしますね」(田中さん)
 この世のどこかで、自分の作った会心の竿で心から釣りを楽しんでいる人がいる。それが田中さんにとっての一番の喜びなのでしょう。

 最後に田中さんに『竹製バスロッド』について語っていただきました。
「『竹製バスロッド』というのは、紀伊山地が育てた材料(竹)と、この地の伝統の技術を使って出来上がるものですから、“和歌山”そのものなのです。和歌山を代表する商品になってくれればと思っています」

田中さん、弘兼さん、残間さんの集合写真

この記事に登場したプレミア和歌山推奨品

竹製バスロッドの写真

竹製バスロッド
紀州へら竿 和人
商品詳細ページ
紀州へら竿 和人(外部ページ)

ロハス農園(紀の川市)

いちじくプリンセス

令和3年度プレミア和歌山推奨品審査委員奨励賞


樹上完熟した極上いちじくを
すばやく、やさしく消費者の元へ

ロハス農園のいちじく畑の写真

 果物は完熟した時が美味しいもの。樹上で完熟したのならなおさらです。ただし、それを食べ頃で消費者に届けるのは難しいことでもあります。完熟した果物の食べ頃は短く、傷みやすいからです。それでも、育てた生産物を最高の状態で届けたい、そんな願いをいちじくで実現させたのがロハス農園です。商品名は『いちじくプリンセス』。

辻本さんお二人の写真

 いちじくの収穫期は8月から11月くらいまで。ロハス農園では、摘み取りは太陽の光がしっかり当たり、熟成の様子が確認できる、日の出と共に始まります。収穫から間髪を入れず消費地に届けるには、正午にはパッケージした上で、発送を終えていなければなりません。
 また、傷みやすい完熟状態のいちじくを守るため、実が互いに触れ合わず、中空に浮かせるように柔らかいビニールのクッションに乗せられた状態でパッケージされています。ここもロハス農園ならではのこだわりです。

いちじく畑と弘兼さんの写真
いちじく畑を見学する弘兼さんの写真

難敵は風と雨。収穫時期ごとの味の違いも楽しんでほしい

 生産者の辻本慎司さんに、弘兼さんがいちじく栽培の難しさを聞きました。
「やはり風と雨ですね。いちじくの実は熟してくるほどに傷つきやすくなるのですが、いちじくの葉はザラザラしていて、この葉が風が吹くことで実の表面を傷つけてしまうのです。葉と葉を結び付けたりするのですが、強い風が吹くとひとたまりもありません。雨も実の表面がカビたりしますので厄介です」

 辻本笑(えみ)さんは、夫の慎司さんの手伝いでいちじく選果の現場を見て愕然としたそうです。いちじくは本来完熟が一番おいしいのに、若採りのいちじくが秀品として出荷され熟したものは規格外として行き場を失う現実。それなら独自の規格で一番おいしい状態を直接お客さまに届けようと農園直送販売を開始しました。
「今はいちじく作りが楽しくて仕方ありません。一つひとつの実が我が子のように可愛いですね。繁忙期は自分の子どもに『ゴメン!』と言いながら朝の支度もそこそこに畑に飛び出していきます(笑)。それからいちじくは収穫する時期によっても味わいが変わります。夏は温度が高いので早く熟成して、食感がフワッとしているんですが、気温が下がってくると熟成に時間がかかり、実がしっかりしてきます。こういう味の変化も楽しんで欲しいですね」

いちじく畑で作業する辻本さんの写真 「いちじくプリンセス」の梱包作業の写真

食べればわかる完熟の旨さ

 弘兼さんが育った実家にもいちじくの木があり、いちじくはとても身近な果物だったそうです。目の前の畑から取ったばかりの『いちじくプリンセス』を試食した感想をお聞きしました。
 「いや、これは甘いよ。旨い。賞を取るだけのことはあるね」とご満悦。ワイン好きの弘兼さんですから、これに生ハムとワインがあれば最高だったのではないでしょうか。

 最後に辻本慎司さんからメッセージをいただきました。
 「和歌山の太陽をたくさん浴びた、こだわりの美味しい完熟いちじくを是非食べてください」
 昔は地元でしか味わえなかった樹上完熟いちじく。生産地から離れた都会にいても楽しめる時代が来ています。

辻本さんお二人、弘兼さん、残間さんの集合写真

この記事に登場したプレミア和歌山推奨品

いちじくプリンセスの写真

いちじくプリンセス
ロハス農園
商品詳細ページ
ロハス農園(外部ページ)

旅の終わりに

伝統とチャレンジ、
それがものづくりの本来の姿

 「今日訪れた生産者の方は、どなたも伝統の技を継承しつつ新しいものにチャレンジしていました。これこそ本来のものづくりの姿であり、深く感銘したところです。これまでプレミア和歌山パートナーを務めさせていただいていましたが、改めて和歌山の良さというのを発見した気がしています。また機会がありましたら、今度はプライベートで訪れたいですね」(弘兼憲史さん)

弘兼さんの写真

弘兼 憲史(ひろかね けんし)●漫画家
松下電器産業に勤務の後、昭和49年漫画家デビュー。
代表作は『島耕作』シリーズ、『人間交差点』『黄昏流星群』など。平成19年には紫綬褒章を受章。

プレミア和歌山パートナー出演 PR動画