弘法大師伝承の紙に生命を吹き込む「高野細川紙金封」
1枚の紙を成す繊維の1本1本から感じるあたたかみ。楮(こうぞ)のみを原料とした手漉き和紙「高野紙」の風合いは、優しくも剛健で、手に取るとその素朴さにホッと和む。この紙と色鮮やかな水引を組み合わせた和モダンな金封が生まれたのは、弘法大師空海・お大師さまのお膝元、高野山。山内寺院で考案した金封の根底に息づくのはお大師さまの教え。命の大切さと伝統ある紙の存在と、その伝承への想いを女性ならではの発想で伝えている

自然とセラピーを受けているんです
探し物をしていた時、高野紙の束が出てきたんです。以前、先代との何かの会話の中で、その紙の存在を聞いてはいました。
漉く人が限られている希少な紙。簡単には破れない丈夫さがあり、筋が入っていて文字を書くには難易度が高そうなテクスチャー。
お大師さまの紙の伝承を担っている中坊さんという方にお願いして漉いてもらったと伺っていましたので、思い入れのある紙なのだろうと。
なので、この紙を意味のあるものにしたかったんです。
そこで思いついたのが高野紙の金封でした。合わせる水引には200以上の色があります。着物と帯の色合わせに意外な色の組み合わせがあるように、素朴な高野紙と華やかな水引の色の組み合わせも不思議にしっくりと可愛くなる。
どの色を組み合わせようかと考えるだけでも楽しくて、自然とカラーセラピーを受けている感じがします。
同じモチーフでも作る人によって個性が出て、そこもまた魅力です。高野山にいらっしゃる様々な年代の方々と、いつか一緒に作業ができる日が来たらいいなと思います。


世界遺産の紙のルーツがここ細川と言われています
和歌山県には山路紙、保田和紙、そして高野紙の3つの和紙が残っています。高野紙は、細川村(現在の高野町細川地区)をはじめ高野山麓の高野十郷といわれる10の村で受け継がれてきました。ユネスコ無形文化遺産になった「細川紙」は埼玉県の紙ですが、そのルーツは紀州の細川村で漉かれた「細川奉書」と言われています。漉き簀(すきす)に竹ではなく萱(かや)を用いるのは他に類のない高野紙の特徴。
山上の標高が高いところで採れる細くて節の長いススキが原料で、1つの漉き簀に使うのは150本程度でしょうか。これらの道具を自作するのも伝統のひとつなんですよ。昔は傘紙として作られていたそうで、職人というより農閑期に農家が漉いていたすごく素朴な味の紙なんです。


お大師様の紙を残し、伝えたい
2月頃、刈り取った楮を蒸して、はいだ皮をさらに黒皮、白皮に分けます。これをじっくりと炊き、たたいて繊維の状態に。水に、たたいた楮を入れて、それに粘りを出したトロロアオイを混ぜて、漉きの作業へと進みます。底から繊維をしっかりと漉き出して、1度揺らして奥に水を捨てる。2、3度めは手前に。流し漉きをして最後に溜めるので、半流し漉きといいます。1回1回塵を取り除くのも重要。まだまだ九度山町の下古沢で高野紙を漉いていた中坊さんのようにはいきませんが、何も考えずに無心で漉く時間はいいですね。
高野紙はお大師さまが伝えた紙とも言われています。キレイに漉きたいし、残していくのはもちろん、さらに丁寧に工程をきっちり伝えられたら。西細川活性化実行委員会の地域の人が、楮の収穫や畑の整備などで関わってくれているのが有難いですね。


いのちを生かすために
1200年続く高野紙の技術の伝承に、小さくとも関われれば。 高野山で生活させて頂くことはとても有難く、また気の引き締まる思いで日々を過ごしています。
昔は女人禁制だった高野山で、私たち女性に何ができるか。そう考えて出来たのがこの金封でした。西室院で平成26年に始めた喫茶室もその一環で、寺院の一歩奥に踏み込んだ静寂な空間と蔵に眠っていた食器やお道具。それらを最大限に使わせて頂くことは、高野山真言宗の「生かせいのち」にも繋がります。金封も、役目を終えたら捨てられるのではなく、水引の部分は朱印帳バンドや傘の目印として。白檀のお香を忍ばせた熨斗の部分はブックマークとしてほのかな香りと共に読書をお楽しみ頂いています。西室院の茶室の障子は、金封としての役目を終えた高野紙を水に濡らして雲形にちぎったもので修繕していてとても気に入っています。
これら全ての事は、私のママ友達が主体となって一生懸命に動いてくれて、とても感謝しています。



高野山別格本山西室院 koubou2466亀位千鶴子さん(Koubou2466/写真右)
飯野尚子さん(紙漉き人/写真左)
弘法大師が高野山を開創した際に建てた四室(中、東、北、西)のひとつ、西院が独立した寺院で、最初の山内寺院とされる西室院。
Koubou2466は、住職の奥様、亀位千鶴子さんを中心に女性たちが金封をはじめ御朱印バンドやお守り袋など水引と高野紙を使ったものづくりを手掛ける工房。他に、喫茶部もあり、寺院内でお茶やお菓子をいただける。
使用する高野紙は、旧高野町立西細川小学校を拠点に現在唯一の高野紙の伝承者である飯野尚子さんが1枚1枚手作業で生産。
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